商標編第16回(応用編の第1回)です。
不登録事由、商標法第4条第1項各号について、イラストで分かりやすく説明します。
第6回では商標法第4条第1項第11号のみ解説しましたが、今回はそれ以外のところを解説します。
かなり長丁場になりますので、ざっと眺めていただければと思います。
目次(クリックするとその項目に移動します)
第4条第1項第1号~第6号
第4条第1項第7号
第4条第1項第8号
第4条第1項第9号
第4条第1項第11号
第4条第1項第10・15・19号
第4条第1項第12号
第4条第1項第14号
第4条第1項第16号
第4条第1項第17号
第4条第1項第18号
☆ ☆ ☆
まず、審査の流れを復習しましょう。
出願している商標に不登録事由があると、拒絶されて商標登録ができないのでした。
そもそも商標法第3条の要件を満たさない場合、例えば識別力がなく商標として機能していないような場合は審査で拒絶されます。
第3条の要件をクリアしても、これからお話しする商標法第4条の要件を満たさない場合は、審査で拒絶されます。
第4条第1項第1号~第6号
条文は最後の方に掲載してありますが、条文だけ見ても分かりづらいと思います。
第1号~第6号の該当例を写真等でざっと見ていただき、イメージをつかんでいただければと思います。
国旗等です。同一類似の商標は当然商標登録できません。
(商標に関する条約の)同盟国の紋章などです。
ただし、紋章・記章は各国ごとに多くありますので、保護対象は「経済産業大臣が指定するもの」に限られます。
これはこの後の3号や5号でも同じです。
国連や国際機関の標章です。ロゴに限りません。
出願に係る商標がアルファベット数文字で構成される場合で、国際機関の略称と被っていたりすると、この拒絶理由が来るので注意が必要です。
例えば出願商標「EUREKA」が欧州先端技術共同体構想(European Research Coordination Action)の略称を表示する標章と同一類似であるとして、本号を理由に拒絶されました。
赤十字や、イスラム教国において赤十字に相当する「赤新月」等と同一類似の商標は登録されません。
証明用の印章等と同一類似の商標は登録されません。
都道府県等の標章で著名なものと同一類似の商標は登録されません。
☆ ☆ ☆
いかがでしたでしょうか。
これらに該当する商標は登録できなくて当然かな、というものが多かったと思います。
第4条第1項第7号
第4条第1項第7号に該当する場合は「公序良俗違反」などといわれます。
登録NG例を見てみましょう。
また、不正な目的があるとして拒絶した例を挙げます。
以下のスライドにある「剽窃」とは、「他人の作品等を盗んで、自分のものとすること」です。
時系列を以下に示します。
引用商標に関わるASUSTeK社(マザーボードの世界シェア1位・著名企業)とASRock社(左記企業の子会社・著名企業)があり、その正規輸入代理店ユニスター社が原告です。
「本件商標」の商標登録出願人が被告です。
ASUSTeK社が引用商標を第二ブランドとしてデビューさせる旨のニュース報道を行ったその翌日、商標登録出願人(被告)が本件商標について韓国で商標登録出願(基礎出願)をしました。
その後、商標登録出願人は基礎登録に基づいて日本で商標登録出願をしました。
なお、その商標登録出願人は事業の実態がほとんどないにもかかわらず多数の商標登録出願をし、警告書等を送付していました。
以下に裁判所の判断を示します。
赤文字部分、黄色マーカー部分のみかいつまんで読んでいただければと思います。
「本件商標は、商標権の譲渡による不正な利益を得る目的あるいはASRock社及びその取扱業者に損害を与える目的で出願されたものといわざるを得ない。」
「被告の本件商標の出願は、ASUSTeK社若しくはASRock社が商標として使用する…であろうと認められる商標を、先回りして、不正な目的をもって剽窃的に出願したものと認められ、…本件商標は「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべきである。」
と判示しています。
☆ ☆ ☆
以上、商標登録出願に不正の目的があると判断された例を挙げました。
上記の例のような公序良俗違反は立証が非常に難しく、第4条第1項第7号違反の訴えは常に認められるわけではありません。
「不正の目的がありそうだから第4条第1項第7号違反で訴えれば勝てるでしょ」という気軽なものではないということです。
第4条第1項第7号は「伝家の宝刀」などと言われています。
第4条第1項第8号
商標法第4条第1項第8号は、他人の氏名等を含む商標は登録できない、という規定です。
令和5年に法改正がありました。
以前は著名ではない他人の氏名を含む商標も拒絶の対象だったのですが、その要件が緩和されました。
これから運用によりルールが明確になっていくと思われます。
なお、「氏+名」が第4条第1項第8号の対象です。
例えば、「鈴木」や「田中」などの「氏」のみを含むような単純な商標は、商標法第3条の規定で拒絶されます。
第4条第1項第9号
商標法第4条第1項第9号の規定は以下の通りです。
ざっくり言って、博覧会の「賞」と同一類似の商標は拒絶されます。
第4条第1項第11号
第6回を引用します。
すでにご覧になられた方は読み飛ばしていただいて結構です。
第4条第1項第11号や商標の類否等についてもう一度ご覧になりたい方は、以下のリンクをクリックしてください。
知的財産とは(商標編)第06回/その商標は登録できません!(不登録事由・第4条)
(クリックすると別タブで開きます。)
事例です。
アイスクリームを指定商品とするAさんの先願商標「TOYOUKEWHITE」があり、のちに登録されたとします。
そのAさんの出願のあと、Bさんが同じ指定商品について商標「トヨウケホワイト」を出願したとします。
この場合、Bさんの出願は商標法第4条第1項第11号で拒絶されます。
紛らわしい商標を2つ登録すると、消費者(需要者)が混乱するからですね。
あとから出願した商標が上記のようなものである場合、やはり第4条第1項第11号違反で拒絶されます。
ある登録商標がある中、商標が同一類似、かつ、指定商品(役務)が同一類似の商標について出願しても、その出願は拒絶されます。
逆に言えば、商標または指定商品(役務)のどちらかが登録商標と非類似である場合、その出願は第4条第1項第11号を理由としては拒絶されません。
☆ ☆ ☆
なお、商標法第4条第1項第11号に関わる法改正が令和5年にありました。
下記の要件をどちらも満たす場合、商標法4条1項第11号の規定は適用しないことになります(商標法第4条第4項)。
1. 先願に係る商標権者から、商標登録を受けることについて承諾を得ている
2. (商標権者、使用権者が使用している)商品・役務との間で、混同を生ずるおそれがない
こちらはコンセント(同意)制度と呼ばれており、海外の法制度と歩調を合わせたものです。
第4条第1項第10号、第15号、第19号
各号のイメージについて最初に見ていきましょう。
ある事業者が商標「TOYOUKEWHITE」を商品「アイスクリーム」に使用し、周知になっていたとします。
この商標は未登録周知商標です。
その後、第三者が「TOYOUKEWHITE」と類似する商標「トヨウケホワイト」について、「アイスクリーム」を指定商品として出願しても、商標法第4条第1項第10号違反により拒絶されます。
商標法第4条第1項第10号は、商品等の出所混同防止のほか、未登録周知商標の既得の利益を保護します。
ある事業者が商標「TOYOUKEWHITE」を商品「アイスクリーム」に使用していたとします。
その後、第三者が「TOYOUKEWHITE」と類似する商標「トヨウケホワイト」について、「ワイン」を指定商品として出願したとします。
商品「アイスクリーム」と「ワイン」は非類似です。
しかし、先の事業者の「TOYOUKEWHITE」と出所混同のおそれがある場合、その出願は商標法第4条第1項第15号違反により拒絶されます。
出所混同のおそれがある、ということは、商標「TOYOUKEWHITE」は周知商標です。
ある事業者が商標「TOYOUKEWHITE」を商品「アイスクリーム」に使用し、周知になっていたとします。
その後、第三者が「TOYOUKEWHITE」と類似する商標「トヨウケホワイト」について、「化粧品」を指定商品として出願したとします。
商品「アイスクリーム」と「化粧品」は非類似です。また、出所混同のおそれもないとします。
しかし、出願人に不正の目的がある場合、その出願は商標法第4条第1項第19号違反により拒絶されます。
不正の目的とは例えば、利益を得る目的や周知商標の使用者に害を与える目的です。
☆ ☆ ☆
これら10号、15号、19号の関係性について、審査基準の例が分かりやすいので記載します。
なお、以下のスライドでは、「著名」という言葉が使われていますが、これはあくまで例です。
例えば、第4条第1項第10号や第11号は引用商標が著名でなくても適用されますのでご注意ください。
商標法第4条第1項第10号と第11号の違いは未登録商標か登録商標かの違いです。
商標法第4条第1項第10号や第11号に該当しなかったとしても、商品等の出所の混同のおそれがある場合は商標法第4条第1項第15号が適用され、拒絶等されます。
さらに商標法第4条第1項第15号に該当しなかったとしても、不正の目的があるのであれば商標法第4条第1項第19号が適用され、拒絶等されます。
商標法第4条第1項第10号の事例です。
未登録ながら周知となった「ミネルヴァ書房」の存在を理由に、商標「ミネルバ」指定商品「印刷物」等に係る出願を拒絶しました。
商標法第4条第1項第15号の該当する例、該当しない例は例えば上のスライドの通りです。
指定商品等が非類似であっても、混同を生じるおそれがある場合は適用されます。
商標法第4条第1項第19号に関係する判例です。
裁判所の判断は以下になります。赤文字部分などをかいつまんで読んでいただければと思います。
第4条第1項第12号
防護標章については第18回で紹介します。
醤油で有名なキッコーマン株式会社ですが、預金の受け入れなどは事業として行っていません。
ただ、銀行業などを扱う事業者が同じロゴを使用した場合、「キッコーマン株式会社」と何か関係があるのではないかと需要者に取られかねません。
また、その事業者が悪評を得るような事業者の場合、キッコーマン株式会社にも悪影響が生じかねません。
このようなケースにおいて、防護標章登録により第三者の商標取得を阻止できるのが防護標章登録制度です。
この他人の登録防護標章と同一の商標については商標登録できない、という規定が第4条第1項第12号です。
第4条第1項第14号
種苗法上の品種登録がなされ、その品種の名称が「A」だったとします。
育成権者は名称「A」の使用義務があります。また、当該登録品種以外の品種に名称「A」を使用することはできません。
その後、第三者が名称「A」と類似する商標「A’」について、「苗、種子」を指定商品として出願したとします。
この場合、その出願は商標法第4条第1項第14号違反により拒絶されます。
参考までに、逐条解説を見てみましょう。
こちらも参考ですが、第4条第1項第14号に関わる判例です。
結論から申しますと、指定商品「ハオルシア」(アロエ様の観賞用植物)等と引用登録品種「ばれいしょ種」が類似するとしたものです。
そのような判断の根拠は以下です。
「商品自体が互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても、同一の営業主の生産販売等に係る商品と誤認混同されるおそれがあるときは商品類似とする」という判断です。
第4条第1項第16号
第4条第1項第16号は、「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」です。
審査基準の例を見てみましょう。
なおこの規定は、商品の品質等の劣悪には関係ありません。
まず、該当する(拒絶等がされる)例です。
続いて、該当しない(拒絶等がされない)例です。
第4条第1項第17号
第4条第1項第18号
商標法第3条の復習です。
出願に係る商標が商品の形状や商品の包装の形状そのものにすぎない立体商標などであり、識別力がないとして第3条第1項第3号で弾かれても、第3条第2項に該当する(全国的周知である)場合は登録になるのでした。
商品の形状や商品の包装の形状そのものにすぎない立体商標など、識別力のない商標が全国的周知となり、第3条第2項の適用で商標法第3条の要件をクリアしたとしても、
「その商標が商品等が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標」である場合は、商標法第4条第1項第18号の規定により拒絶されます。
まとめです。
これまで見てきたような商標(第4条第1項各号に該当する商標)は、商標登録ができません。
ご参考までに、商標法第4条の条文を掲載しておきます。
【参考】商標法第4条 条文
知的財産とは(商標編)第16回は以上になります。
第17回は「団体商標・地域団体商標」についてお話ししていきます。
(第16回 了)
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