弁理士が商標をわかりやすく解説-第6回「その商標は登録できません!(不登録事由・商標法第4条)」…商標登録の要件(登録すべきではない商標や先行商標がる場合)について、イラストでわかりやすく説明します。 (IPdash東京 特許事務所/弁理士 留場恒光)

商標編第6回です。
商標の不登録事由について、イラストで分かりやすく説明します。

出願から商標登録(商標権の取得)までの流れの復習:審査において、拒絶理由があると商標登録になりません。ここでは拒絶理由として、商標が不登録事由に該当する場合を見ていきましょう。ここでは、第4条第1項第11号のみ取り扱います。

たとえ商標が商標登録の要件を満たしても、商標が不登録事由に該当する場合、その商標登録出願は拒絶され、商標登録を受けることができません。

第3条と第4条の関係は以下のようになります。ご参考まで。

(参考)商標登録ができない場合:商標登録ができない場合として、登録要件を満たさない場合(商標法第3条違反)と、不登録事由に該当する場合(商標法第4条違反)があります。商標法第3条と商標法第4条の二段構えで判断されますが、商標に識別力が無い場合など、つまり、本質的に商標として機能しない場合は、商標法第3条違反で拒絶されます。

商標法第4条第1項第11号

商標法第4条第1項各号を全て解説すると長くなるので、今回は商標法第4条第1項第11号を取り上げます。

拒絶理由の実に35%が「類似する他人の先行登録商標がある」ことを理由としているためです。

なお応用編では、商標法第4条第1項各号すべてについて解説しています。

知的財産とは(商標編)第16回/不登録事由(第4条第1項各号)

(クリックすると別タブで開きます。)

第4条第1項第11号のイメージ:アイスクリームを指定商品とする先願商標「TOYOUKEWHITE」があり、登録されたとします。そのあと、同じ指定商品についての商標「トヨウケホワイト」を出願しても、商標法第4条第1項第11号で拒絶されます。

事例です。

アイスクリームを指定商品とするAさんの先願商標「TOYOUKEWHITE」があり、のちに登録されたとします。

そのAさんの出願のあと、Bさんが同じ指定商品について商標「トヨウケホワイト」を出願したとします。

この場合、Bさんの出願は商標法第4条第1項第11号で拒絶されます。

紛らわしい商標を2つ登録すると、消費者(需要者)が混乱するからですね。

第4条第1項第11号関連:商標「TOYOUKEWHITE」・指定役務「アイスクリーム」が他人の登録商標として存在しているとします。「トヨウケホワイト」は類似商標、「パン」は類似指定商品です。商標および指定商品の双方が同一または類似である後願の商標は、第4条第1項第11号により拒絶されます。なお、令和5年(2023年)法改正があります。先願の商標権者の承諾がある場合は、第4条第1項第1号を適用しません(次ページ)。

あとから出願した商標が上記のようなものである場合、やはり第4条第1項第11号違反で拒絶されます。

ある登録商標がある中、商標が同一類似、かつ、指定商品(役務)が同一類似の商標について出願しても、その出願は拒絶されます。

逆に言えば、商標または指定商品(役務)のどちらかが登録商標と非類似である場合、その出願は第4条第1項第11号を理由としては拒絶されません。

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なお、商標法第4条第1項第11号に関わる法改正が令和5年にありました。

商標法第4条第1項第11号に関わる法改正(令和5年)-商標法第4条第4項(コンセント制度):1.先願に係る商標権者から、商標登録を受けることについて承諾を得ていること、2.(商標権者、使用権者が使用する)商品・役務との間で混同を生ずるおそれがないこと、を満たす場合、商標法4条1項第11号の規定は適用しない

下記の要件をどちらも満たす場合、商標法4条1項第11号の規定は適用しないことになります(商標法第4条第4項)。

1. 先願に係る商標権者から、商標登録を受けることについて承諾を得ている
2. (商標権者、使用権者が使用している)商品・役務との間で、混同を生ずるおそれがない

こちらはコンセント(同意)制度と呼ばれており、海外の法制度と歩調を合わせたものです。

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話を戻します。

先願登録商標と類似する商標は拒絶される可能性があるわけですが、
ここで「商標の類似とはなにか」という点が問題となっています。

似ている似ていないというのは人の感覚に頼るところが大きいからです。

商標法において、商標の類否は以下のように判断します。

(重要)第4条第1項第1号関連:商標の類否です。商標の類否(2つ商標が似ているか似ていないか)はどのように判断するのでしょうか。商標審査基準によると、「商標の類否は、出願商標及び引用商標がその外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、出願商標を指定商品又は指定役務に使用した場合に引用商標と出所混同のおそれがあるか否かにより判断する。 」とあります。キーワードは外観(見た目・視覚)、称呼(読み方・聴覚)、観念(意味・イメージ)です。具体例を見ていきましょう。

「外観(視覚によるもの、見た目)」、「称呼(聴覚によるもの、読み方)」、「観念(イメージ、意味)」がキーワードです。

これらを総合判断して商標の類否を決定します。

「外観」、「称呼」、「観念」についてそれぞれ具体例を見ていきましょう。

第4条第1項第1号関連、「外観」の類否です。「Japax」と「JapaX」は外観が類似すると判断します。

商標審査基準によると、「外観」類似(または非類似)として上記の例が掲載されています。

第4条第1項第1号関連、「称呼」の類否です。「セレニティ」 と「セレリティ」、「ビスカリン」 と「ビスコリン」、「ダンネル」 と「ダイネル」、「ブリテックス」 と「ブリステックス」、「ビプレックス」と 「ビタプレックス」は類似します。称呼類似は文字商標の類否に大きく影響します。称呼類似について、審査基準に多くの例が示されています。

続いて、「称呼」類似の例は上記になります。

例えば、

・「セレニティ」と「セレリティ」は、音数が同じです。そして、相違する1音「二」と「リ」はともに母音が「i」です。

また、

・「ビスカリン」と「ビスコリン」はともに音数が5の称呼からなります。そして、相違する1音「カ」と「コ」が同じカ行に属します。

・「ダンネル」と「ダイネル」は、相違する1音「ン」と「イ」がともに弱音です。

・「ブリテックス」と「ブリステックス」は、音数は違いますが、弱音の有無の差があるに過ぎません。

・「ビプレックス」と「ビタプレックス」は、比較的長い称呼であるなか、「ビタプレックス」は1音だけ多いに過ぎません。

称呼類似の判断基準は他にもありますので、興味のある方は商標審査基準をご参照ください。

最後に「観念」類似です。

第4条第1項第1号関連、「観念」の類否です。具体例としては、「でんでんむし物語」と「かたつむり物語」が挙げられます。一方、「観念」非類似の例として、「EARTH」と「terre」が挙げられます。当該指定商品に関する我が国の需要者の外国語の理解度からすれば、「EARTH」からは「地球」の観念を生じるが、フランス語「terre」(テール)からは「地球」の観念を生じないため観念は異なるためです。なお、商品名等にフランス語が一般に採択されている商品等の分野においては、当該観念が生じる場合があります。このほか、文字「虫」とてんとう虫のイラスト、「ギター」と「ヴァイオリン」のイラストなどがあります。

具体例としては、「でんでんむし物語」と「かたつむり物語」が挙げられます。

一方、「観念」非類似の例として、下段に3例挙げています。

・「EARTH」(「地球」の意味の英語)と「terre」(「地球」の意味のフランス語)の場合、日本におけるフランス語の理解度を考えると、「terre」からすぐに「地球」の観念は生じない、ということです。

・文字「虫」とイラストの場合、真ん中右の図形は、「虫」ではなく、「テントウムシ」と認識されるため、観念
は異なります。

・一番左の図形はそれぞれ「ギター」、「バイオリン」と認識されるため、観念は異なります。

弁理士が商標をわかりやすく解説-第6回まとめ:不登録事由に該当する商標(第4条第1項各号)は、商標登録されません。商標が似ているかどうかは、商標の外観(見た目)/称呼(読み方)/観念(意味) が影響します(第4条第1項11号)。

まとめです。
不登録事由に該当する商標(第4条第1項各号)は、商標登録されません。
商標が似ているかどうかは、商標の外観(見た目)/称呼(読み方)/観念(意味) が影響します(第4条第1項11号)。

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知的財産とは(商標編)第6回は以上になります。

第7回では「ライセンス(使用権)」についてお話ししていきます。

(第6回 了)
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