05.どこまでが権利になる? (特許請求の範囲):特許請求の範囲(権利範囲)について、イラストで分かりやすく説明します(IPdash東京 特許事務所/弁理士 留場恒光)

特許編第5回です。
特許請求の範囲(権利範囲)について、イラストで分かりやすく説明します。

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第2章「権利化前」です。

第2章と第3章は、特許のライフサイクルに沿って説明します。
第2章が発明の権利化まで、第3章が権利化後です。

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まずは特許庁に提出する書類(出願書類)について見ていきましょう。

権利範囲は、【特許請求の範囲】で決まる。実体のない発明を、言葉で表現する。特許庁に提出する書面は、特許願・特許請求の範囲・明細書・図面・要約書の5つ。

特許の権利範囲は【特許請求の範囲】で決まります。
実体のないアイデア・発明を、言葉で表現する必要があります。

具体例で考えてみましょう。

A板、B板、C板からなる耐火板の発明をしたとして、どのようにして言葉で表すか、について見ていきます。

左図のような発明をしたとします。
製品の耐火板はA板、B板、C板からなります。
特徴的な性能(耐火性)はA板とB板によるものです。

このような発明を【特許請求の範囲】の中でどう表現するか、見ていきましょう。

【特許請求の範囲】の中には、【請求項】が含まれます。一番最初の【請求項1】には、必須の要素(A板、B板)を書きます。

【特許請求の範囲】には【請求項】という項目が含まれます。

【請求項1】に必須の要素、A板とB板を書きます。
これはA板もB板も必須(アンド条件)ということであり、例えば、「A板は含むがB板は含まない耐火板」は含みません。

【請求項2】にはより製品に近い形を書いています。

次のページで、これらの関係を図で見てみましょう。

請求項1にはC板を持たないものも含まれます。また、請求項2は請求項1に含まれます。

権利関係を示したのがこちらの図です。

請求項1にはC板を含まないものも含みます。

また、請求項1(A and B)の権利範囲に
請求項2(A and B and C)の権利範囲が完全に含まれる形になります。

このように、権利範囲は【特許請求の範囲】に書かれた言葉の表現で決まります。

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続いて、この発明で特許を取得した場合を見ていきましょう。

事例問題:製品①はA板、B板の他、自社製品にはないE板を含みます。製品②はB板、C板、E板を含みます。 これらの製品は特許の権利範囲に含まれるでしょうか。

先ほどの内容で特許を取得できた場合を考えます(図中、水色の二重円)。
他社製品①、②はこの特許権の権利範囲に含まれるでしょうか。

事例問題解答:製品①は、必須のA板・B板を含んでいるので権利範囲内です。製品②は、必須のA板を含んでいないので権利範囲外です。

本特許はA板、B板が必須の要素(構成)です。

よって、A板、B板をいずれも含む製品①は、本特許権の権利範囲に含まれます。
つまり、製品①の販売等に対して、その他社に特許権を行使(後述)できます。

一方で、必須のA板を含まない製品②は、
本特許権の権利範囲に含まれません。
つまり、製品②の販売等に対しては特許権を行使できません。

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補足:もし仮に、C板も必須の要素としていた場合(請求項1にC板も記載していた場合)は、製品①も権利範囲外になります。

補足です。

自社製品がA板、B板、C板を含むからと言って、特許請求の範囲にそのまま書いたらどうなるでしょうか。
つまり、C板を必須の要素として請求項1に書いた場合です。

この場合、A板とB板は含むものの、C板を含まない他社製品①が権利範囲外となってしまいます。

どこまでを必須の要素とするかの見極めが重要です。

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要素(構成要素)を少なくすれば権利範囲は広くなります(例:A板を含む耐火板)。しかし、そのような発明が既に知られていた場合、特許を取得できません。一方で、権利範囲が狭すぎると、特許を取っても役に立たない可能性があります。

要素(構成要素)を少なくすれば権利範囲は広くなります(例:A板を含む耐火板)。

しかし、そのような発明が既に知られていた場合、特許を取得できません。

一方で、権利範囲が狭すぎると、特許を取っても役に立たない可能性があります。

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特許権の権利範囲は【特許請求の範囲】の記載で決まります。権利範囲に含まれる他社製品に対して権利行使が可能です。既存の発明との兼ね合いで、権利範囲を見極めることが重要です。

まとめです。
・特許権の権利範囲は【特許請求の範囲】の記載で決まります。
・この権利範囲に含まれている他社製品に対しては、権利行使が可能です。
・既存の発明との兼ね合いで、権利範囲を見極めることが重要です。

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発明の構成をどこまで必須と捉えるか。
どのように表現するか。

そしてどのくらいの権利を要求し、取得するのか。

権利化するにあたって、弁理士の腕の見せ所と言えます。

(第5回 了)
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