弁理士が商標をわかりやすく解説-第15回「国際登録」…商標権の国際登録について、イラストでわかりやすく説明します。マドリッドプロトコルに関する話です。(IPdash東京 特許事務所/弁理士 留場恒光)

商標編第15回です。
商標権の国際登録、特にマドリッドプロトコルについて、イラストで分かりやすく説明します。

マドリッド協定の議定書*という商標に関する国際条約があり、この条約上の国際登録制度があります。*正式名称:標章の国際登録に関するマドリッド協定の1989年6月27日にマドリッドで採択された議定書。通称「マドリッドプロトコル」、「マドプロ」。マドリッド協定議定書は、単一の手続で、各指定国はその国における商標権と同等の効果を認める点で、特許協力条約(PCT)のような単なる手続の簡素化のための条約とは異なるという特徴を有します。

今回マドリッドプロトコルについて見ていきます。

マドリッドプロトコルによる国際登録の手続の流れです。まず、出願人は自国内(日本なら日本国内)に基礎となる商標登録出願または商標登録があることが必要になります。基礎出願・基礎登録がある場合、出願人は本国官庁(ここでは日本国特許庁)に出願を行います。この手続は国際事務局に直接行うことはできず、本国官庁経由で行う必要があります。本国官庁である日本の特許庁は方式審査(商標同一性の審査等)を行い、問題なければ国際事務局に送ります。国際事務局では別の方式審査(商品・役務の方式審査など)を行います。書類に欠陥があればその旨の通報を行い、出願人は欠陥通報に対して意見書で意見を表明することなどができます。一方、方式に問題なければ、国際事務局は出願に係る商標等を国際登録簿に記録して国際公開し、出願人が指定している国に通報します。なお、この段階ではまだ権利は保護されません。指定国は、拒絶理由がある場合は、所定期間内(18カ月など)に拒絶の通報をしなくてはいけません。拒絶通報に対する対応は現地代理人(弁理士等)に依頼します。拒絶理由がなければ(なくなれば)、その指定国で商標権が発効します。

マドリッドプロトコルによる国際登録の手続の流れです。

前提として、日本国内に基礎となる商標登録出願または商標登録があることが必要になります。

基礎出願・基礎登録がある場合、出願人は本国官庁(ここでは日本国特許庁)に出願を行います。
この手続は国際事務局に直接行うことはできず、本国官庁経由で行う必要があります。

本国官庁である日本の特許庁は方式審査を行い、問題なければ国際事務局に送ります。

国際事務局では別の方式審査を行います。

書類に欠陥があればその旨の通報を行い、出願人は欠陥通報に対して意見書で意見を表明することなどができます。

一方、方式に問題なければ、国際事務局は出願に係る商標等を国際登録簿に記録して国際公開し、出願人が指定している国に通報します。
なお、この段階ではまだ権利は保護されません。

指定国は、拒絶理由がある場合は、所定期間内(18カ月など)に拒絶の通報をしなくてはいけません。

拒絶通報に対する対応は現地代理人(弁理士等)に依頼します。

拒絶理由がなければ(なくなれば)、その指定国で商標権が発効します。

(参考)PCT出願(特許)の手続の流れです。適式な出願を行うと、国際出願日が得られます。国際事務局は国際公開や国際調査報告(拘束力のない特許性の見解)の発行を行います。出願人は、国際出願日から(通常)2年半経過するまでに特許権を取得したい国に移行手続きを行います。移行手続きとは、翻訳文の提出などを含みます。移行の手続を受けた国の指定官庁(各国特許庁)は、その発明について審査を行い、特許権の登録または拒絶を行います。権利化するためには各国での移行手続きが必要であり、各国において弁理士などの代理人の協力が必要です。

比較までに、PCT出願(特許)の手続の流れを載せておきます。

出願人が適式な出願を行うと、国際出願日が得られます。

出願人は、国際出願日から(通常)2年半経過するまでに特許権を取得したい国に移行手続きを行います。
移行手続きは、翻訳文の提出などを含みます。

移行の手続を受けた国の指定官庁(各国特許庁)は、翻訳された明細書等に基づいて審査を行い、特許権の登録または拒絶を行います。

権利化するためには各国での移行手続きが必要であり、各国において弁理士などの代理人の協力が必要です。

特許協力条約(PCT)とマドリッドプロトコルの特徴です。特許の国際出願(PCT):権利化するためには、権利化したい国ごとに移行手続きを要し、外国代理人(弁理士)の協力が必要。移行(権利化)する国を国際出願日から2年半検討できる。 商標の国際出願(マドリッドプロトコル):国を指定して国際事務局に出願することで、拒絶通報がない限りは各国における権利化まで可能であり、外国代理人の協力が不要。 なお、1つの特許権が世界中で効力を持つ統一特許制度を目指しましたが、先進国と途上国の対立が激しく、実現はしませんでした(参考:図解 特許協力条約 荒木好文)。ただし方式は統一できているので、PCTは方式統一条約と言われています。

特許協力条約(PCT)とマドリッドプロトコルの特徴です。

特許の国際出願(PCT):権利化するためには、権利化したい国ごとに移行手続きを要し、外国代理人(弁理士)の協力が必要です。
移行(権利化)する国を国際出願日から2年半検討できます。

商標の国際出願(マドリッドプロトコル):国を指定して国際事務局に出願します。
拒絶通報がない限りは各国における権利化まで可能であり、外国代理人の協力が不要です。

まとめです。
商標には、単一手続きで国際登録が可能な制度があります。
ただし、登録したい国ごとに費用がかかります。

応用:登録主義と使用主義

「商標を使用していること」を重視する主義を使用主義と言います。
アメリカが顕著な例です。

これに対し、
「商標の登録があること」を重視する主義を登録主義と言います。
日本などはこちらです。

ただし、一方が他方をないがしろにしているという事ではありません。

例えば、登録主義の日本であっても、不使用取消審判など、使用主義的な制度も有していたりします。

  ☆     ☆     ☆

上記に関連して注意点があります。

アメリカでは、商標を国際登録したうえで使用したとしても、権利行使される場合があります。

実際に商標を使用している人の権利が強いためです。

以下簡単にご紹介します。

コモンロー(Common Law)上の権利・事例:時系列順に説明します。まず、A氏が商標Aをサンフランシスコにおける自己のハンバーガーショップに善意で(誰かのマネとかではなく)使用していたとします。A氏は商標登録はしていません。その後、甲社が商標Aについて国際登録し、権利が有効な国にアメリカも含むとします。また国際登録後、甲社はサンフランシスコとニューヨークで商標Aを用いてハンバーガーショップ事業を開始したとします。この場合、サンフランシスコでの使用に対して、甲社はA氏から権利主張される可能性があります。商標を実際に使用しているA氏は、例え商標登録出願していなくても自己の商品について商標Aを使う権利(コモンロー(Common Law)上の権利)があります。そして、後からその土地で商標Aを使用し、混同を生じさせた者に対して権利を主張できるためです。アメリカにおいては、商標権を取得したからといって使用できるとは限りません。使用前の調査が重要です。

事例です。時系列順に説明します。

A氏が商標Aを、サンフランシスコにおける自己のハンバーガーショップに、善意で使用していたとします。
(「善意」とは、誰かのマネとか不正の意思なく、といった意味です。)

なお、A氏は商標登録はしていません。

その後、甲社が商標Aについて国際登録し、権利が有効な国にアメリカも含むとします。

国際登録後、甲社はサンフランシスコとニューヨークにおいて、商標Aを用いたハンバーガーショップ事業を開始したとします。

この場合、サンフランシスコでの使用に対して、甲社はA氏から権利主張され、それが認められる場合があります。

  ☆     ☆     ☆

商標を実際に使用しているA氏は、例え商標登録出願していなくても自己の商品について商標Aを使う権利(コモンロー上の権利)があります。

そして、後からその地域で商標Aを使用し、混同を生じさせた者に対して権利を主張できるためです。

つまり、アメリカで事業展開する場合、商標を国際登録してそれで終わり、ではありません。

現地代理人などに依頼し、商標を使用しても問題ないか、調査してもらう必要があります。

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知的財産とは(商標編)第15回は以上になります。

これで知的財産とは(商標編)はいったん一区切りです。

ここまでお読みいただければ、商標の実務上必要な部分についてひととおり触れることができたと考えます。

このあと「応用編」に入ります。

応用編の第1回(第16回)では「不登録事由(第4条第1項各号)」についてお話ししていきます。

以前第4条第1項第11号しかお話しできなかったので、それ以外の不登録事由をご紹介します。

(第15回 了)
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第16回(応用編第1回):不登録事由(第4条第1項各号)

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