弁理士が商標をわかりやすく解説-第12回「審判Ⅱ(取消審判)」…商標法特有の制度である取消審判について、イラストでわかりやすく説明します。 ここでは特に不使用取消審判、不正使用取消審判、代理人による不正登録取消審判を取り扱います。(IPdash東京 特許事務所/弁理士 留場恒光)

商標編第12回です。
商標法特有の制度である取消審判について、イラストで分かりやすく説明します。

取消審判には以下の種類があります。1.不使用取消審判(商標法第50条)、2.不正使用取消審判(商標法第51条、商標法第53条、商標法第52条の2)、3.代理人等による不正登録の取消審判(商標法第53条の2)。取消審判は当事者系審判です。

ここで、商標の「同一」や「類似」について復習します。

同一・類似の復習:商標の同一類似と指定商品(指定役務)の同一類似により、同一の範囲(専用権の範囲)や類似の範囲(禁止権の範囲)が決まります。

専門用語なので読み流していただいて構わないのですが、

商標が同じ、かつ、指定商品(指定役務)が同じ部分(水色部分)を「専用権の範囲」といいます。

商標が同じか類似、かつ、指定商品(指定役務)が同じか類似の部分で、専用権の範囲で無い部分(白色部分)を「禁止権の範囲」といいます。

例えるなら、「専用権の範囲」は「お城」、「禁止権の範囲」は「お堀」のようなものです。

類似商標について:以下では、ある商標Aに類似する商標を 商標A ´(Aダッシュ)とします。

以下上記のように「商標A」と「商標A’」を説明に使用します。

不使用取消審判

不使用取消審判は、3年以上不使用状態にある商標登録の取消しを請求する審判です。使いたい商標があるが、第三者によりその商標がすでに商標登録されていたとします。しかし、その商標はどうも3年以上使用されていないようです。このようなとき、その商標登録に対して取消審判を請求することができます。審判は特許庁審判官の合議体が行います。審判官の合議体は請求認容(商標取消)か請求棄却の審決を出します。

不使用取消審判は、3年以上不使用状態にある商標登録の取消しを請求する審判です。

使いたい商標、商標登録したい商標があるが、第三者によりその商標がすでに商標登録されていたとします。
また、その商標はどうも3年以上使用されていないようです。

このようなとき、その商標登録に対して取消審判を請求することができます。

審判は、特許庁審判官の合議体が行います。

審判官の合議体は、請求認容(商標取消)か請求棄却の審決を出します。

なお以下において、審判官の合議体が審判により審決を出すのはどの取消審判も同じであるため、説明を省略します。

不使用取消審判(商標法第50条)は例えば、不使用商標の存在を理由に出願が拒絶される場合などに、請求する利益があります。商標Aについて出願した出願人が、商標A'を理由として拒絶理由通知を受けたとします。商標A'が3年以上使用されていない場合、出願人は商標A'に対して不使用取消審判を請求し、それが認められれば商標A'は消滅しますので、商標Aについての拒絶理由は解消し、商標登録を受けることができます。なお審判請求中は審査を中断してもらうことができます。

事例です。

商標Aについて出願した出願人が、類似する商標A’の商標登録を理由として、拒絶理由通知を受けたとします。

商標A’が3年以上使用されていない場合、出願人は商標A’に対して不使用取消審判を請求できます。

そしてそれが認められれば商標A’は消滅します。

つまり、商標Aについての拒絶理由は解消し、商標登録を受けることができます。

なお審判請求中は審査を中断してもらうことができます。

水色部分(専用権の部分)を「城」、白色部分(禁止権の部分)を「堀」と例えました。商標権者であっても、類似商標(禁止権に係る商標)の使用はできません。

なお、登録している商標と類似する商標(上記白色部分の商標)を使用し、登録している商標を使用していない場合は、「不使用」と判断されます。

また、商標権者であっても、類似範囲の商標を積極的に使用することはできません。

次は、類似範囲の商標を使用して混同を生じさせたような場合の制裁規定についてお話しします。

不正使用取消審判(商標法第51条)

不正使用取消審判(商標法第51条)は、商標権者による商標の不正使用があった場合に、その商標登録の取消しを求める審判です。

不正使用取消審判(商標法第51条)は、商標権者による商標の不正使用があった場合に、その商標登録の取消しを求める審判です。例えば、商標「こーする家康」について商標登録がされていたとします。商品はまんじゅうだったとしましょう。その後、ドラマで「どうする家康」の名称が周知になったとします。それを知った商標権者は、故意に、そのドラマにあやかるべく、「こーする家康」ではなく「どーする家康」を商品まんじゅうに使い始めました。需要者(消費者)は、そのまんじゅうがドラマと関係があると思って、あるいはドラマを応援するために、そのまんじゅうを買ってしまいます。つまり誤認・混同が生じます。紛らわしいわけですね。このような場合に、何人も、商標表登録の不正使用について取消審判を請求できます。

事例とともに説明します。

商標「こーする家康」について商標登録がされていたとします。商品は「まんじゅう」だったとしましょう。

その後、テレビドラマで「どうする家康」の名称が周知・著名になったとします。

それを知った商標権者はそのドラマにあやかるべく、「こーする家康」ではなく「どーする家康」を商品まんじゅうに使い始めました。

需要者(消費者)は、そのまんじゅうがドラマと関係があると思って、あるいはドラマを応援するために、そのまんじゅうを買ってしまいます。つまり誤認・混同が生じます。紛らわしいわけですね。

このような場合に、何人も、商標表登録の不正使用について取消審判を請求できます。

不正使用取消審判(商標法第53条)

不正使用取消審判(商標法第53条)は、ライセンスを受けた使用権者による商標の不正使用があった場合に、その商標登録の取消しを求める審判です。使用権者の不正使用であっても商標は取り消されます。つまり、商標権者は使用権者の使用にも注意を払う必要があります。なお、商標権者が相当の注意を払っていたにもかかわらず、使用権者が知らないところで紛らわしい商標を使用していた場合などは、取消しを免れることもあります。

不正使用取消審判(商標法第53条)は、ライセンスを受けた使用権者による商標の不正使用があった場合に、その商標登録の取消しを求める審判です。

使用権者の不正使用であっても商標は取り消されます。

なお、商標権者が相当の注意を払っていたにもかかわらず、使用権者が知らないところで紛らわしい商標を使用していた場合などは、取消しを免れることもあります。

不正使用取消審判(商標法第52条の2)

不正使用取消審判(商標法第52条の2)は、類似する商標権が分離移転され、類似商標が併存する場合において、どちらかの商標の故意の使用により混同等を生じたときは、混同を生じさせた方の商標について取消しを求める審判です。例えば、商標A(ラーメンどーする)と商標A'(ラーメンこーする)の2つについて商標権者が適式に商標を取得したとします。その後商標権者はその一方の商標A'を第三者に譲渡しました。つまり、類似する商標について別々の商標権者がいることになります。その後、商標A’を譲り受けた商標権者の努力により、商標A'が周知・著名になったとします。それを見た商標Aの商標権者が、「ラーメンこーする」ではなく「ラーメンどーする」を不正競争の目的で使い始めました。そうすると、消費者は周知著名になった「ラーメンどーする」だと思って「ラーメンこーする」のお店に入ったり、商品を購入してしまうわけです。つまり、誤認・混同が生じています。このような場合に、混同等を生じさせた商標について取消審判を請求できます。

事例で説明します。

商標A(ラーメンどーする)と商標A’(ラーメンこーする)の2つについて、商標権者が適式に商標を取得したとします。

その後、商標権者はその一方の商標A’を第三者に譲渡しました。
つまり、類似する商標について別々の商標権者がいることになります。

その後、商標A’を譲り受けた商標権者の努力により、商標A’が周知・著名になったとします。

それを見た商標A(ラーメンこーする)の商標権者が、「ラーメンどーする」を不正競争の目的で使い始めました。

そうすると、消費者は周知著名になった「ラーメンどーする」だと思って間違って「ラーメンこーする」のお店に入ったり、商品を購入してしまうわけです。
つまり、誤認・混同が生じます。

このような場合に、混同等を生じさせた商標について取消審判を請求できます。

(なお、上記の例では商標Aの商標権者が不正競争の目的で商標を使用した例を挙げましたが、逆に、商標A’の商標権者が不正競争目的の使用を行った場合も同様です。)

代理人等による不正登録の取消審判(商標法第53条の2)

代理人等による商標の不正登録の取消審判(商標法第53条の2)は、外国(同盟国)において商標に関する権利を有する者の代理人が、許諾や正当理由なく日本で商標を取得した場合に、その商標に関する権利を有する者がその日本で不正に登録された商標について取消しを求める審判です。

代理人等による商標の不正登録の取消審判(商標法第53条の2)は、外国(同盟国)において商標に関する権利を有する者の代理人が、許諾や正当理由なく日本で商標を取得した場合に、その商標に関する権利を有する者がその日本で不正に登録された商標について取消しを求める審判です。

不使用取消審判と不正使用取消審判の比較です。主体的要件:どちらの審判も、何人も請求ができます。時期的要件:不使用取消審判は商標権の存続期間中に請求ができます。不正使用取消審判も同様ですが、不正使用の事実がなくなってから5年経過した場合、不正使用取消審判は請求できなくなります。趣旨:不正使用取消審判の趣旨は、「商標法上の保護は、商標の使用によって蓄積された信用による不使用商標は信用が発生せず、独占権を認めるのは妥当ではない」とあります。一方、不正使用取消審判の趣旨は制裁です。取消審判には、取消理由に該当していることが必要です。

不使用取消審判と不正使用取消審判の比較です。

どちらの審判も、何人も請求ができます。

また、不使用取消審判は商標権の存続期間中に請求ができます。
不正使用取消審判も同様ですが、不正使用の事実がなくなってから5年経過した場合、不正使用取消審判は請求できなくなります。

不正使用の取消審判の趣旨は「制裁」です。 例え商標権者などであっても、混同を生じさせるような商標の使用は許さない、という意図が感じられるかと思います。

参考までに、無効審判と異議申立ての例も挙げておきます。

無効審判と異議申立ての比較です。主体的要件:無効審判は利害関係人に限られるのに対し、異議申立ては何人も請求ができます。時期的要件:無効審判は商標権の存続期間中であれば(むしろ消滅後も)請求できるのに対し、異議申立ては商標掲載公報の発行の日から2カ月以内に限られます。趣旨:無効審判は過誤による商標登録、つまり本来権利として存在できないものに権利を認めるのは妥当ではない(当事者間の争いの解決)とあるのに対し、異議申立ては商標登録に対する信頼性向上であり、申立てがあった場合に特許庁が自ら登録処分の適否を審理し、瑕疵がある場合はその是正を図る、とあります。
弁理士が商標をわかりやすく解説-第12回まとめ:商標の不使用や不正使用がある場合、その商標登録は取消の対象になり得ます。

まとめです。
商標の不使用や不正使用がある場合、その商標登録は取消の対象になり得ます。

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知的財産とは(商標編)第12回は以上になります。

第13回では「審判と裁判」についてお話ししていきます。

(第12回 了)
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