弁理士が商標をわかりやすく解説-第8回「商標権を侵害するとどうなるの?(刑事と民事、過失の推定)」…商標権を侵害した場合の民事的措置と刑事的措置、および過失の推定について、イラストでわかりやすく説明します。 (IPdash東京 特許事務所/弁理士 留場恒光)

商標編第8回です。
商標権を侵害した場合の民事的措置と刑事的措置、および過失の推定について、イラストで分かりやすく説明します。

商標権侵害に対する措置は、以下のようになります。

商標権侵害に対する民事的措置は損害賠償請求(民法第709条)、差止請求(商標法第36条)、不当利得返還請求(民法第703条等)、または信用回復措置請求(特許法第106条準用)です。刑事的措置は、懲役や罰金となります(商標法第78条・商標権を侵害した者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する)。「商標法違反の容疑で逮捕」というニュースは時折見かけます。

民事的措置は損害賠償請求、差止請求、不当利得返還請求、そして信用回復措置請求です。

刑事的措置も定められているため、商標権を侵害した者には刑事罰が科されます。

ここで、損害賠償請求に関連して重要なルールを紹介します。

過失の推定

過失の推定:商標権侵害は「知らなかった」では済まされません。商標法第39条で準用する特許法第103条(過失の推定)「他人の特許権又は専用実施権を侵害したものは、その侵害の行為について過失があったものと推定する。」この理由について、逐条解説の特許法第103条の項にはおおむね以下のようなことが書かれています。①情報は公報で公開されている②事業としての行為のみが該当する(被害額が大きい)

商標法には過失の推定規定があります。特許法のルールを準用と言う形で取り込んでいます。

情報は公開されているのだから、事業者であれば十分注意するだろうといった理由です。

なぜ過失の推定規定があるか、深堀りします。損害賠償請求の要件(民法709条)は「1.故意過失(≒わざと、うっかり)があること、2.権利侵害があること、3.損害(損害額)があること、4.侵害と損害に因果関係があること」ですが、商標権者は、1.の故意過失の立証が不要になります。侵害者が侵害品を市場に投入した結果、商標権者の商品がその分売れなくなったとします。それが侵害と損害の因果関係です。

なぜ過失の推定規定があるのかですが、その理由を端的に言うと損害賠償請求時の立証負担の軽減です。

損害賠償請求が成立させるために、商標権を侵害された商標権者は上記4つの要件を立証しなければいけません。

しかし過失の推定規定があることで、上記のうち①の「故意過失があること」は商標権者が立証しなくてもよいわけです。

なお、④侵害と損害に因果関係がある、とは、

侵害者が侵害品を市場に投入した結果(上記のイラストでは段ボール2個)、商標権者の売り上げが落ちた(段ボール2箱分が売れなかった)ため損害が生じた、ということです。

故意・過失というのはいわば心の内面の問題なので、一般に立証が難しいものです。よって、この過失の推定規定は侵害訴訟等において、非常に大きな意味を持っています。ビジネスを行うに際して、商標権を取得する大きな理由のひとつかもしれません。
弁理士が商標をわかりやすく解説-第8回まとめ:商標権侵害には、民事的措置、刑事的措置が可能です。過失の推定規定により、損害賠償請求時における商標権者の立証負担を軽減しています。

まとめです。
商標権侵害には、民事的措置、刑事的措置が可能です。
過失の推定規定により、損害賠償請求時における商標権者の立証負担を軽減しています。

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知的財産とは(商標編)第8回は以上になります。

第9回では「先使用権」についてお話ししていきます。

(第8回 了)
IPdash東京 特許事務所

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