12.4つの審判(審判制度):特許法上の審判制度について、イラストで分かりやすく説明します(IPdash東京 特許事務所/弁理士 留場恒光)

特許編第12回です。
特許法上の審判制度について、イラストで分かりやすく説明します。

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第4章「特許紛争」です。

特許侵害訴訟が起こると、訴訟とは別に特許無効審判などが請求されます。

訴訟と審判の関係について説明する前に、審判制度についてお話ししたいと思います。

特許法上の審判には①拒絶査定不服審判、②訂正審判、③特許無効審判、④延長登録無効審判、の4つがあります。審判制度は一言で言うと、判断(処分)の見直しです。

特許法上の審判は4つあります。

一つずつ見ていきましょう。

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①拒絶査定不服審判:拒絶査定不服審判では、審査が適切に行われたか、審判官の合議体が再判断します。

審判制度は、一言で言うと判断(処分といいます)の見直しです。

まず、①拒絶査定不服審判とは何かについてご説明します。

特許庁の審査の結果、拒絶査定を受けたとします。
しかし、その審査結果に納得がいかないときは、「拒絶査定不服審判」を請求することが出来ます。

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審判は特許庁の審判官が担当します。
審査官の審査が適切に行われたかどうか、再判断します。
(なお、拒絶査定不服審判に限らず、すべての審判について、審判官の合議体が審理します。)

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審査官の認定に誤りがあった場合等、請求人の請求に理由があると判断されると請求認容(請求OK)となります。
この場合、特許が付与されるか、審査官に審査が差し戻しされます。

一方、審査官の認定が正しかったと判断された場合は、請求が棄却されます(請求NG)。

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②訂正審判:訂正審判では、訂正の可否を判断します。特許の瑕疵を取り除き、無効審判に備えるための防御方法です。

続いて②訂正審判とは何かについてご説明します。

訂正審判では、(特許請求の範囲等の)訂正の可否を判断します。

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次のページで具体的にお話ししますが、
成立した特許権に無効理由等の問題点(瑕疵といいます)があった場合、
そのままにしておくと無効審判等で無効にされてしまう可能性があります。

権利者がその可能性に備えて問題点を取り除き、
特許を無効にしようとする攻撃に備えるという意味で、防御方法などと言われます。


請求が認容されると、訂正後の内容で特許登録されます。

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特許権者は訂正と言う防御方法により、無効審判(攻撃方法)に対抗します。

訂正審判についてより分かりやすく説明するため、例を挙げて補足します。

図の左の例をご覧ください。
もし特許発明と同じ発明が出願日前に知られており(公知例あり)、
それが見逃されて請求項1の発明が特許されてしまった場合、
この特許は新規性がなかったのに特許を受けていることになります(新規性違反)。

この場合、この特許は「全体として」無効理由を抱えることになります。

つまり、たとえ請求項2の発明に特許性があっても、
まとめて無効となる可能性がある、ということです。

そこで、特許権者は問題のある請求項1を削除訂正します(図の真ん中)。
権利範囲は狭くなりますが、問題のない(瑕疵の無い)権利となるわけです。

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③特許無効審判:特許無効審判では、特許の有効性を争います。 無効審判は、特許を消滅させる「攻撃方法」です。請求人vs.特許権者という対立構造を取ります。

つづいて、③特許無効審判とは何かについてご説明します。
特許無効審判は、特許紛争で必ずと言っていいほど登場する審判です。
特許の有効無効をこの審判で争います。

請求人vs.特許権者という対立構造を取ります。

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請求人の請求が認められ、審決が確定した場合(請求OK、特許無効の場合)、
その対象の特許権は初めから存在しなかったものとみなされます

無効審決が確定すると、特許権は初めから存在しなかったものとみなされます。

例えばこのイラストのように、
「A社の特許権成立→B社による特許権侵害発覚→A社からB社への損害賠償請求」
という流れがあったとします。

無効審判請求が認められれば特許権がそもそも存在しなかったものとみなされますので、特許権侵害もなかったことになります(特許権者敗訴)。

つまり、特許権侵害を訴えられた側からすると、「特許を無効にしさえすれば、侵害訴訟に勝訴できる」ということになります。

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ここで息抜きに、クイズを1つ出します。

問題1:特許無効審判はどこで行われるでしょうか?

特許無効審判はどこで行われるのでしょうか。

答え:特許庁です。(裁判所の「法廷」に対し、「審判廷」という用語が使われます。)

争いごとなので裁判所でやるように思えますが、実は特許庁で行われます。
法廷に対して、「審判廷」と呼ばれます。

この審判廷について少しご紹介します。

特許法上の審判は4種類ありますが、企業同士等で争う無効審判は審判廷で行われます(口頭審理)_審判便覧・第18版

こちらは審判廷の構成図です。
特許庁の建物の中に、裁判所の法廷が開かれるような部屋があります。

ここに審判請求人と被請求人(特許権者)が向かい合って座り、特許庁の審判官が審理を進行します。

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④延長登録無効審判:医薬・農薬等の分野では、国の承認審査に時間が掛かることもあり、審査に掛かった期間の分、特許の権利期間を延長する制度があります。この延長の是非を争うのが延長登録無効審判です。

最後に、④延長登録無効審判です。
こちらも当事者が対立する構造を取ります。

医薬・農薬等の分野では、国の承認審査に時間が掛かることもあります。

その承認審査により権利者が特許発明を実施できなくなる期間が生じ得るため、その分の権利期間を延長する制度があります(最大5年間)。

延長登録無効審判ではこの延長の是非を争います。

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例えば、5年間延長されたA社の特許権に、B社が(嫌々ながら)毎年ライセンス料を払い続けていたとします。

延長期間が5年ではなく実は3年だった場合、B社が払うべきライセンス料は2年分安くなります。

このような場合に延長登録無効審判が利用されます。

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拒絶査定不服審判では、審査が適切に行われたかについて再判断します。 訂正審判では、特許の訂正の可否を判断します(防御方法)。特許無効審判では、特許の有効性を判断します(攻撃方法)。延長登録無効審判では、延長登録の有効性を判断します。

まとめです。
・拒絶査定不服審判では、審査が適切に行われたかについて再判断します 。
・訂正審判では、訂正の可否を判断します(防御方法)。
・特許無効審判では、特許の有効性を判断します(攻撃方法)。
・延長登録無効審判では、延長登録の有効性を判断します。

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審判(行政審判)はあまり一般にはなじみのない制度です。

本スライドが少しでもイメージ形成に役立つのであれば幸いです。

審判制度については次回以降も触れていきます。

(第12回 了)
IPdash東京 特許事務所

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