弁理士が地理的表示(GI)をわかりやすく解説-第1回「地理的表示(GI)と地域団体商標の違い」…地理的表示(GI)と地域団体商標の違いについて、イラストでわかりやすく説明します。(IPdash東京 特許事務所/弁理士 留場恒光)

地理的表示編第2回です。
地理的表示(GI)と地域団体商標の違いについて、イラストで分かりやすく説明します。

QUIZ

まずクイズです。気軽に考えてみてください。

問題:どちらが地域団体商標で、どちらが地理的表示でしょうか。A:ほべつメロン、宇治茶、松阪牛、飛騨牛、西条の七草、山形名物玉こんにゃく、今治タオル、鴨川温泉。B:夕張メロン、深蒸し菊川茶、特産松阪牛、飛騨牛、くまもと県産い草、山形ラ・フランス、伊予生糸、すんき















答えはこちら。

答え

Aが地域団体商標、Bが地理的表示です。

地理的表示(GI)と地域団体商標の例

まず、地理的表示(GI)登録の例を見ていきましょう。

次に、地域団体商標の例です。

地域団体商標は750件以上の登録があるので、一部のみ表示しています。

「江戸切子」や「鴨川温泉」などがあることを少し覚えておいてください。

地理的表示と地域団体商標の違い

地理的表示法とは?「Q.一見すると、地域団体商標とどう違うのかがわからないですね…」「A.その疑問はもっともだと思います。地理的表示と地域団体商標の違いを一枚で表した資料があるので、特徴を見てみましょう。」

重要なスライドです。

1.保護対象

まず、地理的表示と地域団体商標では保護対象が異なります。

前回、地理的表示は特定の農林水産物等であることをお話ししました。
つまり、地理的表示の保護対象は農林水産物や飲食料品等になります。

それに対し、地域団体商標はすべての商品、すべてのサービスが保護対象となります。

先ほど、「江戸切子」と「鴨川温泉」という地域団体商標があることを覚えておいてくださいと言いました。
「江戸切子」と「鴨川温泉」は農林水産物や飲食料品ではありませんね。
よって、これらは地理的表示の保護対象ではありません。

なお、保護対象の「名称」について、地域団体商標には必ず地域名が含まれますが、地理的表示はそうとは限りません。
そのような地理的表示の例として、長野県の「すんき」(漬物)があります。

2.主な登録要件

地理的表示には「特性を維持した状態で概ね25年の生産実績があること」、
地域団体商標には「商標が需要者の間に広く認識されていること」があります。

3.規制手段

こちらも地理的表示と地域団体商標で大きな違いがあります。

地理的表示は一度登録されると行政が取締りを行ってくれます。

一方、地域団体商標は商標権者が自ら差止請求や損害賠償請求等の権利行使を行います。

どちらがよいとは一概には言えません。それぞれに利点があります。

4.保護期間

地理的表示は登録要件を満たしている限りは更新手続きが不要です。

一方、商標は10年ごとに登録料を納付する必要があります。

ただし、どちらも半永久権という点では一緒です。

5.申請・出願先

第1回で述べたように、地理的表示は農林水産省が所管官庁であり、地域団体商標は特許庁が所管官庁です。
よって、申請(出願)先が異なります。

雑談

雑談「Q.主体的要件を満たす場合、結局、地理的表示による保護と地域団体商標による保護のどちらを選択すればよいのでしょう?」「A.達成困難な登録要件(登録維持要件)で考えてみると、分かりやすいと思います。地理的表示なら約25年ほどの特性の維持実績と将来にわたる生産管理工程の維持です。地域団体商標ならそのブランドの一地域以上の周知性です。登録要件をクリアしている方の保護を求めるとよいと思います。どちらも登録のメリットは大きいですからね。」

冒頭のクイズの「飛騨牛」のように、地理的表示と地域団体商標の双方について登録することが可能です。

地理的表示と地域団体商標のどちらもメリットがありますので、必要に応じて双方登録することもアリかと思います。

「確かにどちらも登録要件のクリアが難しそうですね。」「私見ではありますが、商品の海外への輸出を積極的に考えているのであれば、地理的表示はオススメです。商標には優れた国際登録制度がありますが、海外における模倣品対策は自ら行う必要があります。これは一般に負荷が大きいです。一方、地理的表示による保護の場合、協定を結んでいる国(EUなど)であれば、現地の行政機関が取締りを行ってくれます。」

具体例を見てみましょう。

地理的表示による保護:1.外国政府によるGI保護・「相互保護」の枠組みにより、日本で登録されたGIが外国政府でも保護(海外でのGIの悪用)スペインのレストランにおいて南米産牛肉のメニューに「TROPICAL KOBE BEEF」と表示。また、ドイツのスーパーにおいて、ニュージーランド産和牛に「Wagyu Kobe-Style」と表示→我が国からの要請に応じ、EU当局が事業者に対し名称の削除を指導、2.冒認商標への対抗→当局が当該商標の登録を拒絶、3.ショッピングサイトにおける不正出品物の削除→1300件以上の不正使用の内、1000件以上の削除が完了 (農林水産省「地理的表示保護制度の運用見直し」より)

スライド左側の【海外でのGIの悪用】にあるように、相互保護を約束している国(EUなど)において地理的表示の不正使用があった場合、現地当局が不正使用品を排除してくれます。

商標登録による保護の場合、現地での商標権を取得し、その商標権に基づいて権利行使を行う必要があります。

現地の代理人を雇う必要があるため、手間が掛かります。

(参考)地理的表示法施行前の農林水産省資料:当時の記載は左記の内容でしたが、今は海外でも地理的表示が保護されるようになってきているんですね!

制度が始まった2015年頃は相互保護の枠組みもありませんでした。

よって当時は上記のスライドのように、「登録されたことをもって、直ちに海外でも当該地理的表示が保護されるものではない」のでした。

それから8年以上が経過し、外国との相互保護の枠組みも形成されつつあり、日本の地理的表示がEUなどでも保護されるようになりました。

農林水産省をはじめとする各関係者の努力の結果ですね。

「Q.侵害対策の面で、地域団体商標のメリットは何ですか?」「A.侵害者に権利行使(差止請求等)ができる、税関に模倣品の輸出入差止申請ができる、という点が大きいですね。商標権も、登録料を支払う限りは権利が存続する半永久権です。」

差止請求等を可能にする商標権による保護も強力です。

また、商標権に基づく水際措置(輸出入の差止)も可能です。

例えば東京税関で輸出(輸入)差止申請を行うと、全国9か所の税関で情報が共有され、商標権侵害物品があれば通関を止めてくれます。

地理的表示と地域団体商標による重複保護

以下の問題を通じて、地理的表示と地域団体商標の重複登録が可能か否かについて考えてみましょう。

問題1.農産物について地域団体商標の商標権を有する農業協同組合が、さらにおなじ商品についてGI登録を受けることはできるでしょうか?(先・自己の地域団体商標→後・GI登録申請)

すでに地域団体商標を登録しているケースです。

解答1.できます。(地理的表示の登録要件を満たせばよい)

問題2は問題1とは逆に、地理的表示が先に登録されている場合です。

問題2.農産物についてGI登録を受けている農業協同組合が、さらに同じ商品について地域団体商標の商標権を取得することはできるでしょうか?(先・自己のGI登録→後・地域団体商標)
解答2.できます。(地域団体商標の登録要件を満たせばよい)

余談ですが、これは種苗法の品種登録の場合とは異なります。

種苗法の品種登録がなされた場合は、その品種登録を受けた本人であっても商標登録はできません(商標法第4条第1項第14号)。

  ☆     ☆     ☆

同じ団体が地理的表示と地域団体商標の双方について登録できる点については、
冒頭の問題の「飛騨牛」の例があるためわかりやすかったと思います。

続いて、第三者の権利(登録)がある場合の問題です。

問題3.第三者の登録商標があります。その登録商標に類似する名称であり、かつ、その登録商標に係る指定商品と同一または類似の農産物について、GI登録を受けることはできるでしょうか?(先・第三者の登録商標→後・GI登録申請)
解答3.(一般的には)できません。地理的表示法の登録拒否理由です(第13条第1項第4号ロ)。ただし、GIの審査において個別に判断されます。例えば、当該商標権者が、申請農林水産物等の名称と同一・類似の文字部分について、他人の使用を排除する権利を有しているか否かを基準に審査されます。

ただし書きの部分がわかりにくいと思うので補足します。

例えば、静岡県浜松市で営業を行うある事業者Aの営業努力により、「浜松丼」という丼ぶりが全国的に知られるようになり(全国的周知)、
事業者Aは「浜松丼」について(商標法第3条第2項の規定により)商標登録を受けたとします。

この場合、後から事業者Aを除く浜松地域の事業者団体がGI登録をしようとしても拒絶されます。

  ☆     ☆     ☆

続いて「文字部分について、他人の使用を排除する権利を有しない」例を示します。

静岡県湖西市の事業者Bが、中央に「ABC丼」という文字を含むロゴ商標であって、そのロゴの上部に小さく「湖西丼」と書いてある商標について商標登録を受けたとします。
ただし、「ABC丼」や「湖西丼」はその地域で知られているものの、全国的周知ではありません。

この場合、ロゴの上部に小さく書かれた「湖西丼」部分について、事業者Bは他人の使用を排除する権利を有しません。

なぜなら、ロゴ全体として商標登録を受けているのであって、ロゴを構成するパーツ全てに排他権を有しているわけではないからです。

このようなケースの場合、静岡県湖西市の団体が「湖西丼」についてGI登録を受けることは可能です。

問題4:GI登録を受けている第三者の農産物があります(商標登録はない)。その農産物と名称が類似し、商品が同一または類似である商標について商標権を取ることができるでしょうか?(先・第三者のGI登録→後・商標登録出願)
解答4:(一般的には)できません。商標法において、GI産品と類似する場合における特段の明文規定はないため、商標法のルールに従って処理されます。GI登録されているということは、その農産物の名称は一定の周知性を備えています。よって、その出願は商標法第4条第1項第10号違反などで拒絶されるでしょう。

未登録周知商標と同一類似の商標は商標登録を受けることができない、というルールがあります(商標法第4条第1項第10号)。

GI登録後に、そのGIと同一類似の商標かつGI産品と同一類似の商品について、商標登録を受けることはできません。

弁理士が地理的表示(GI)をわかりやすく解説-第2回まとめ:地理的表示(GI)は農林水産物・食品等を、地域団体商標はすべての商品・サービス(役務)を保護対象とします。 地理的表示が登録されると、行政が取り締まりを行ってくれます。一方、地域団体商標の商標権は、差止請求などによる権利行使を可能とします。

まとめです。
・地理的表示(GI)は農林水産物・食品等を保護対象とし、
 地域団体商標はすべての商品・サービス(役務)を保護対象とします。

・地理的表示が登録されると、行政が取り締まりを行ってくれます。
 一方、地域団体商標の商標権は、差止請求などによる権利行使を可能とします。

知的財産とは(地理的表示編)第2回は以上になります。

第3回では「GI申請(出願)から登録まで」についてお話ししていきます。

(第2回 了)
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