弁理士が地理的表示(GI)をわかりやすく解説-第7回「外国との相互保護」…GIの外国との相互保護について、イラストでわかりやすく説明します。

地理的表示編第7回です。
GIの外国との相互保護についてイラストで分かりやすく説明します。

以下は農林水産省の資料です。

外国との相互保護が可能になってきています。

外国との相互保護:海外における地理的表示の保護が国家間の国際約束によっても実現可能。GIの相互保護を可能とする制度を整備したことにより、お互いの国でGIを保護することができる。これにより、模倣品の排除によるブランド価値の保護、生産者自身によるGI申請の負担軽減が図れる。日EU・EPA(経済連携協定)や日英・EPAが発効している。

EPA(Economic Partnership Agreement)は経済連携協定です。

日本はEUや英国と協定を結んでいます。

経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)とは、2以上の国(又は地域)の間で、自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)の要素(物品及びサービス貿易の自由化)に加え、貿易以外の分野、例えば知的財産の保護や投資、政府調達、二国間協力等を含めて締結される包括的な協定です。

財務省:「経済連携協定(EPA)等」より

相互保護により、日本のGIが外国でも保護される話を以前いたしました。

地理的表示による保護(再掲):1.外国政府によるGI保護。2.冒認商標への対抗。3.ショッピングサイトにおける不正出品物の削除。

GI侵害となる例

GI侵害となる例を見ていきます。

GI侵害の例(農林水産省「日EU・EPAにおける地理的表示(GI)の取扱いについて」より)消費者に真正の地理的表示産品と誤認させるような名称の使用 例1.指定される名称:Gouda Holland(オランダ、チーズ) →NG例:オランダ産でないゴーダチーズに「ゴーダチーズ」+オランダ国旗 例2.指定される名称:Jambon d‘Ardenne(ジャンボン ダルデンヌ:ベルギー、生ハム)→NG例:ベルギー産の非GIハムに「アルデンヌ地方の風薫るベルギー産生ハム」など

Hollandは「オランダ」の意味です。

Gouda HollandでGI登録されていますので、オランダ産でないチーズに「Gouda Holland」と表示することはもちろんNGですし、「ゴーダチーズ」の表記にオランダの国旗を付すこともNGです。
オランダのゴーダチーズ「Gouda Holland」と混同し得るためです。

また、生ハムに「Jambon d‘Ardenne」という名称がGI登録されていますが、
同じベルギー産であっても、GI登録されている生産工程を維持していないなど、非GIのハムに「Jambon d‘Ardenne」という名称を付すことはできません。

また、「アルデンヌ地方の風薫るベルギー産生ハム」もNGです。

GI侵害の例:明細書に沿わない商品については、(1)真正の産地を記載している場合であっても、GI侵害とする。 例1.指定される名称:Gorgonzola(イタリア、チーズ)→NG例:「○○県産ゴルゴンゾーラ」 (○○県産、が正しい情報であっても不可) 例2.指定される名称:Beurre d‘Ardenne(ブール ダルデンヌ:ベルギー、バター)→NG例:「○○県産アルデンヌバターを使用したパンケーキ」

「Gorgonzola」はこの一語でGI登録されています。

よって、生産地がイタリアでないもの、所定の生産工程管理ができていないものに「Gorgonzola」の名称を付すことはできません。

「○○県産ゴルゴンゾーラ」のように、生産地を明確にしたとしてもゴルゴンゾーラの使用はNGとなります。

GI侵害の例:明細書に沿わない商品については、(2)翻訳、音訳である場合であっても、GI侵害とする。 例1.指定される名称:Prosciutto Toscano(イタリア、生ハム)→NG例:トスカーノハム 指定される名称:Žatecký chmel(ジャテツキーフメル:チェコ、ホップ)→NG例:ザーツ ホップ、Saaz Hops 指定される名称:Φέτα(ギリシャ、チーズ)→NG例:英訳の「Feta」

GI名称の訳語、音訳の使用もNGです。

例えば、「Prosciutto Toscano」がGI登録されています。

「Prosciutto」はイタリア語でハム、「Toscano」はトスカーナ州などの意味です。

これを日本語に訳した「トスカーナハム」の使用もNGです。

GI侵害の例:明細書に沿わない商品については、(3)~種、~タイプ、~スタイル等の表現を伴う場合であっても、GI侵害とする。 例1.指定される名称:Lübecker Marzipan(ドイツ、菓子類)→NG例:「マジパン・リューベッカースタイル」 例2.指定される名称:Gorgonzola(イタリア、チーズ)→NG例:「ゴルゴンゾーラへのオマージュを込めた国産ブルーチーズ」

「~風」、「~スタイル」などの記載を併用してもNGです。

上記の例の様に「マジパン・リューベッカースタイル」という名称目にした消費者は、
「リューベッカーマジパンそのものではないんだな」と理解しますが、それでもNGです。

「ゴルゴンゾーラへのオマージュを込めた国産ブルーチーズ」は明らかに「ゴルゴンゾーラ」ではないことがわかりますが、これでもダメです。

GI侵害とならない例

一方で、普通名称となったものは混同を生じない限りにおいて、地理的表示法上は自由に使うことができます。

GI侵害とならない例:我が国において普通名称と認識されている以下の語(下線部)については、真正品との誤認混同を生じない限り、地理的表示の保護は及ばない。 例:該当名称Camembert de Normandie(カマンベール ド ノルマンディ)のカマンベール部分。「カマンベール」は普通名称であるため、保護の対象とならない。GI侵害とはならない例:「○○県産カマンベール」、「カマンベール風チーズ」ただし、「カマンベール ド ノルマンディ」と誤認混同するおそれのある表示は、GI侵害となる。GI侵害となる例:「ノルマンディ風カマンベール」

上記のスライドにあるように、「Camembert de Normandie」の名称でGI登録されています。

このうち「Camembert」(カマンベール)の部分は日本で普通名詞化しているので、この部分についてはGIの保護対象ではありません。

これは、一語でGI登録となっている「Gorgonzola」とは異なります。

「○○県産ゴルゴンゾーラ」という名称の使用はNGでしたが、

「○○県産カマンベール」という名称の使用はOKです。

ただし上述したように、GI名称の「Camembert de Normandie」と混同を生じるような名称はNGです。

「ノルマンディ風カマンベール」はNGです。

GI侵害とならない例:下記のうちの普通名称部分。Brie de Meaux(ブリー ド モー), Emmental de Savoie(エメンタール ド サヴォワ), Mozzarella di Bufala Campana(モッツァレッラ ディ ブファーラ カンパーナ), Provolone Valpadana(プロヴォローネ ヴァルパダーナ), West Country farmhouse Cheddar cheese(ウエスト カントリー ファームハウス チェダー チーズ), Edam Holland(エダム ホラント), Gouda Holland(ゴーダ ホラント), Pecorino Romano(ペコリーノ ロマーノ)

上記と同様に、チーズについてBrie(ブリー)という名称だけを使用したもの、Mozzarella(モッツァレッラ)という名称だけを使用したものは、GIに係る権利が及びません。

余談ですが、「Mozzarella di Bufala Campana」や「FETA」などのGI登録チーズには下記のGIマークが付されていたりしますので、探してみてください。赤いGIマークは原産地呼称保護です。

EUのGIマーク(原産地呼称保護(Protected Designation of Origin(PDO))
弁理士が地理的表示(GI)をわかりやすく解説-第7回まとめ:外国との相互保護が進んでいるため、外国における不正使用も取締りができるようになっています。真正のGI産品と誤認させるような名称の使用はGI侵害ですが、普通名称となった名称の使用はGI侵害とはなりません。

まとめです。
・外国との相互保護が進んでいるため、外国における不正使用も取締りができるようになっています。
・真正のGI産品と誤認させるような名称の使用はGI侵害ですが、普通名称となった名称の使用はGI侵害とはなりません。

知的財産とは(地理的表示編)第7回は以上になります。

以上、地理的表示について解説してきました。

地理的表示について、おおよそのイメージが湧いた、理解できた、と思っていた抱ければ幸いです。

IPdash東京特許事務所ではGI登録の代理申請も承っておりますので、気軽にご相談ください。

(第7回 了)
IPdash東京 特許事務所

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